現在理化学研究所で建設中のRIビームファクトリーで使用可能な高エネルギー重イオンの粒子識別装置の開発を行った。傾斜電極型電離箱と名付けたガス検出器を製作しその性能テストを理化学研究所のリングサイクロトロンを用いて行った。56Fe(原子番号26)ビームの核破砕片を用いた粒子識別分解能の測定では、以前に理研の研究予算で作った同種の電離箱と本研究予算で作った電離箱とを直結し、出来るだけ厚いガス層にわたって分解能がどう変化するかを調べた。その結果、粒子識別分解能はガス層の厚さの平方根にほぼ逆比例することが解った。このような特徴は理想的な電離箱(分解能が電離損失の統計変動だけで決まる)に対して期待される特性であるが、ガス層を無限に厚くした極限では分解能は0にはならず、ある有限なオフセット値に収束する結果が得られた。このオフセット値は検出粒子の原子番号Zが増えるに従って増加する傾向があり、Zが25程度までは十分使用可能な分解能を持つが、オフセット値の漸増傾向を外挿していくとZが50を超すような重いイオンに対しては十分な分解能が得られなくなる可能性があることが解った。この原因としては電離箱に用いている電極膜の影響が考えられる。そこで重いイオンに対しての分解能の向上を目指すには電極膜を薄くする必要があると考えている。 計数率に対しての分解能の変化を40Arビームの核破砕片を用いて調べた。この実験ではAr-CH4混合ガスとAr-CF4混合ガスを用いその特性の違いを比べた。その結果Ar-CH4ガスでは計数率が300kcps以下での分解能は極めて良いがそれを超すと急速に分解能が低下していくことが解った。一方、Ar-CF4ガスでは測定を行った最大の計数率である1Mcpsまで分解能はほとんど変化しないという結果が得られた。この違いはAr-CF4ガスの方がAr-CH4ガスに比べ電子の流動速度が大きいことによるものと考えられる。このように高計数率特性に関しては本研究の目的を十分達成することが出来た。
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