今年度の研究実績は大きく3つに分けられる。 1.宇宙マイクロ波背景放射の偏光成分で、銀河団の磁場を再構成する試み 宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎによって生成される偏光成分が銀河団磁場によって受けるファラデー回転効果をもちいて、磁場の強度や性質を知る試みを、銀河団形成の大規模シミュレーションの結果を用いて行った。ここで得られた手法を用いれば、将来の観測によって銀河団磁場の詳細な構造が明らかになる可能性がある。 2.スカラー・テンソル重力理論が生成する宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎ 一般相対性理論に対抗するほとんど唯一の重力理論である。スカラー・テンソル重力理論の場合に予想される宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎを詳細に計算し、一般相対性理論の場合と比較した。新たな人工衛星の温度揺らぎの観測結果を用いれば、両者の違いから、スカラー・テンソル重力理論に対する、今から約137億年前の制限が得られる。 3.水素原子の再イオン化過程 宇宙マイクロ波背景放射に新たな温度揺らぎを引き起こす水素原子の再イオン化過程を詳細に検討し、その空間分布の理論計算と、最新の観測結果を比較することで、再イオン化過程に対する新たな知見を得ることに成功した。
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