本年度は、まず前年度に引き続き、宇宙マイクロ波背景放射の温度分布を詳細に観測したWMAP衛星の成果を受けて、初期宇宙での星・銀河などの形成過程とその結果として銀河間空間がどのようにイオン化していくのかについて、調べた。具体的には、通常の断熱的な揺らぎではなく、等曲率揺らぎが存在している場合について研究を進め、そのような揺らぎの存在によって構造が効率よく形成され、十分に早い時期での宇宙の再イオン化が可能であることを示すとともに、Ly-alpha吸収線系などの観測とも矛盾なくモデルを構築できることを示した。 次に、やはりWMAP衛星の成果を用いて、初期宇宙での物理定数、特に重力定数が現在のものと果たして同じである必要があるのかをしらべた。重力定数の時間進化を予想する理論として、スカラー・テンソル重力理論を採用し、その理論に基づく宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎを計算し、WMAPの結果と比較した。その結果、重力定数は宇宙が誕生して40万年の時代でも現在と5%以上異なった値ではあり得ない、ということを見つけ出した。 WMAP衛星の結果、現在の宇宙にはダークエネルギーが主要な成分であることが明らかになった。そのことを受けて、宇宙の未来がどうなるか、特に陽子が崩壊した後に果たしてポジトロニウムと呼ばれる陽子・陽電子で構成されるある種の原子が形成されうるのかどうか調べた。結果は、宇宙の膨張速度が加速していくために、ポジトロニウムを形成しようとする力よりも、宇宙膨張の力が勝り、形成されないことがわかった。
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