電場効果をもちいて結晶にキャリアを導入する、いわゆる、電場効果ドーピングがいくつかの点で優れたキャリアドーピング法となることが期待されている。本研究では、このような長所をもつ電場効果ドーピングを分子性固体に対して行った場合に、結晶の構造や電子状態にどのような特徴が現れるかを理論的に調べた。計算は、密度汎関数理論に基づく第一原理計算によって行った。ただし、扱う系として現実の状況に近い薄膜を2次元系として扱ったため、2次元エバルト法をもちいて長距離クーロンポテンシャルの和の収束を早めた。まず、C60単分子薄膜について計算を行った結果、C60分子あたり電子がひとつドープされるような場合には、ドープされた電子はC60の電場が印加された片側に偏って分布することがわかった。ホールドープの場合についても同様の計算を行って調べた結果、やはり、ホールは電場がかかった片側にのみ分布することがわかった。C60分子あたりの電子数が1〜3においてそのバンド構造を調べた結果、価電子バンドに顕著な分裂が生じることが見出された。これに関連して、状態密度にも特徴的な構造が現れることがわかった。同様な計算をホールドープの場合にも行った結果、バンドの分裂や状態密度における特徴的な構造などがやはり見出されることがわかった。さらに、C60分子3層からなる薄膜について同じ条件で計算を行った結果、キャリアの分布がC60分子の電場のかかった側だけであるという結果はキャリア数がC60分子あたり1〜3個の場合については膜厚によらないものであることがわかった。
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