研究課題
半導体量子ドット対は、多数の量子ビットを含む情報処理への第一ステップとして重要であり、関心を集めている。ここでは、半導体量子ドット対における励起子のデコヒーレンスについて研究した。電子・格子相互作用による励起子のデコヒーレンス時間を計算するために、キュミュラント展開法を開発した。この方法の利点は、相関関数を指数関数の形で求めるため、十分時間が経った後での指数部の漸近的振舞いからデコヒーレンス時間を簡便に求めることができる点である。電子・格子相互作用についての摂動展開を4次まで実行した。2次の摂動では、状態の変化を伴う縦緩和とそれに付随する位相緩和が生ずる。4次の摂動では、状態の変化を伴わない仮想遷移による純位相緩和が現れることを明らかにした。この理論的準備の後に、量子ドット対における励起子のデコヒーレンス時間を計算した。量子ドット対は2個の量子ドットが近接して並んでいるもので、両者の間には障壁層を介したトンネル過程や双極子相互作用による結合があるため、エネルギー準位は対称、反対称のダブレットに分裂する。この分裂の大きさは、両者の距離、障壁層ポテンシャルの高さに依存する。一般に量子ドットのような零次元系ではエネルギー準位が離散的になるが、緩和現象では近傍のエネルギー準位とのエネルギー差が重要なパラメーターとなる。ここでは音響型格子振動との相互作用を考え、励起子のデコヒーレンス時間を量子ドット間の距離の関数として求めた。エネルギー準位構造が距離の関数として変化することを反映して、いくつかのピーク構造を持つことを明らかにした。実験ではレーザースポット内に含まれる多数個の量子ドット対からの信号が観測されるので、理論が予言するような詳細な構造はまだ確認されていない。更に、量子ドット対ではエネルギー的に近接した2つの準位が存在し、それらが同時に光によって励起されるので、4光波混合の実験では2つのデコヒーレンス時間が観測されることを明らかにした。研究分担者の鎌田主任研究員は、InGaAs量子ドットにおける励起子の位相緩和時間を測定し、その温度依存性、励起強度依存性を系統的に調べた。その結果、位相緩和機構として励起子と音響型格子振動との相互作用及び励起子分子とのコヒーレントな結合が重要であることを見出した。
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