研究概要 |
本研究課題は,内部電場のナノ空間構造に基づく特異な光-物質相互作用を理論,実験の詳細な比較検討により明らかにすることを目的としているが,14年度はその準備として次の2点のことを行った。 (1)実験データにおいて線形応答スペクトルと非線形信号がどのように対応すべきかを理解するために,線形応答の範囲で決まる薄膜中励起子の輻射補正を用いて非線形信号のサイズ依存性を理論的に記述することを試みた。 (2)内部電場のナノ空間構造に基づく新規な現象を理論的に提案した。 それぞれについての結果は以下の通りである。 (1)非局所応答理論により線形応答を決めるセルフコンシステントな式を書き下すと各励起子準位に対応した誘起分極の振幅(これをXとする)を係数とした連立一次式となる。一方,1励起子準位に共鳴する縮退四光波混合の場合,3次非線形分極の中心的寄与を占める項の表式は,同じXの3次の積で展開できることが分かった。上記の連立一次方程式からXは幅射シフトを含む共鳴位置で特異的に増強することが分かるが,非線形信号も同じエネルギー位置で増強することがこの表式から分かった。また各準位による信号増強の程度の違いはそれぞれの準位の輻射シフトの大きさから理解できることもこの表式から明らかになった。[H. Ishihara : Nonlinear Optics 29,pp.663-669(2002),invited paper] (2)CuCl薄膜モデルで非線形応答の入射強度依存性を計算し,膜厚数十nm程度の超薄膜でも内部電場のナノ空間構造によりファブリ-ペロー干渉型の光双安定が起こることを理論的に明らかにした。また内部電場の空間構造の対称性が入射強度に変わることにより,インバーター的双安定動作が起こることも分かった。[H. Ishihara : Phys. Rev. B Vol.67,113302(2003)]
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