本研究では、一般式ABO_3で表されるペロブスカイト型誘電体に対して、SPring-8で放射光を用いた精密X腺構造解析を行い、相転移の本質あるいは物性発現の機構を構成元素間の結合状態の変化という電子論に基づく観点から議論できるような実験的証拠を見い出すことを目指した。本年度の主な成果は以下の3項目である。 1.PbTiO_3について、高エネルギー放射光X線の高透過特性、高角度分解能特性、高強度特性を最大限に利用して粉末X線回折パターンを測定した。測定データをMEM/Rietveld法により解析することで、今までにない精密電子密度分布を得ることができ、強誘電性を示すtetragonal相においてPb6_s状態とO2p状態の混成軌道の存在を初めて実験的に可視化することに成功したこのPb-Oの混成によりPb原子中に分極が生じ、大きな自発分極の一因になっていることがわかった。 2.PbTiO_3と同様の手法を用いて、反強誘電体PbZrO_3の構造解析を電子密度レベルで行った。常誘電相において、Pb原子が[110]方向に微小変位した12サイトを熱的に等確立で占めていることを見出した。反強誘電相では、Pb原子が[110]方向に交互に変位することにより反強誘電性を示すことから、PbZrO_3の相転移は、このPb原子に関する秩序-無秩序型相転移の要素を含むことが示された。 3.BaTiO_3微粒子のサイズ効果について、従来は直径100nmを境に室温でもcubic相のままで強誘電性を示さないと言われていた。しかし、本研究による精密構造解析の結果、BaTiO_3微粒子は室温で、サイズに関係なく表面の8nm程度がcubic構造で中心のtetragonal構造の核を覆っているという構造モデルが提唱された。また、微粒子ではバルク結晶と比較して格子定数が大きいことがわかった。
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