研究概要 |
本研究では,一般式ABO_3で表されるペロブスカイト型誘電体に対して,SPring-8で放射光を用いた精密X線構造解析を行い,相転移の本質あるいは物性発現の機構を構成元素間の結合状態の変化という電子論に基づく観点から議論できるような実験的証拠を見出すことを目的としている.本年度は主に低温相(反強誘電相,強誘電相)の結合状態について調べた. 主な成果は以下の3項目である. 1.我々は平成14年度の反強誘電体PbZrO_3に関する報告の中で,常誘電相においてPb原子はdisorderであり,反強誘電相の原子配置を反映して[110]方向にoff-centerした12サイトを熱的に等確立で占めることを示した.今年度行なった反強誘電相の構造解析の結果,室温においても何らかの原子に関するdisorderが存在し,すべての原子が特定の一つの原子座標にorderしていないことがわかった.今後,室温以下の実験も行い電子密度レベルで結晶構造を解明する予定である. 2.強誘電体PbTiO_3について,常誘電相ではTi原子は酸素原子6個と強く共有結合し酸素八面体を形成しているが,強誘電相ではそのうちの1本の共有結合が切れ5配位となる.酸素5配位というのはまれな結晶構造であるが,PbTiO_3の強誘電相と類似の酸素八面体を有するMoO_3について電子密度レベルで構造解析を行い,同様の5配位であることを示した.また,MoO_3のMoは価数が+6ではなく,理論的にも予想されていた+3価であることも原子周りの電子数を実際に数えることにより実験的に証明した. 3.平成14年度に行なった研究成果と15年度の成果の一部について,雑誌「固体物理」より解説記事を依頼された.図の一部は表紙に採用された.また,同内容をヨーロッパ強誘電体会議(ケンブリッジ,2004.8.3-8)において登壇講演した.
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