研究概要 |
本研究は,励起子研究のモデル物質であるβ-ZnP_2化合物半導体結晶を対象として,高分解レーザー分光および超高速時間分解分光を実施し,光吸収に引き続く励起子の生成過程ならびに個々の緩和素過程の詳細を明らかにすることを目的としている。 本年度は,一重項1s励起子ポラリトンおよび高次励起子の分布数緩和のダイナミクスについての知見を得ることを目的に,フェムト秒レーザーを用いた反射型ポンプ・プローブ法による超高速分光を実施した。ポンプ光照射直後における反射率変化のスペクトルでは,1s横波および縦波励起子エネルギー間(E_T, E_L)で励起子ポラリトンによる顕著な負の反射率変化を観測した。負の変化は,ポンプ光により励起子が多数作られることによる励起子遷移の吸収飽和を表している。また,1.550eV付近に観測される反射率変化は,そのエネルギー位置および分散型のスペクトル形状から,励起子-励起子分子間の過渡的な遷移によるものと結論した。ポンプ・プローブ信号の遅延時間依存の観測から,反射率変化はpsの時間領域で減衰する。解析からポラリトンの分布数緩和時間T_1は非常に短く,E_L付近で1.0ps,E_T付近で1.7psと見積もった。このような緩和時間の違いは,分布数緩和にはフォノン散乱が大きく寄与していることを示唆する。また,ΔRの時間応答には周期0.8psの振動構造が確認され,これを2つの分極間の干渉による量子ビートと解釈した。更に,高次励起子域における分布数緩和を測定し,緩和時間として5.4psを得た。予想に反してポラリトン領域に比べ数倍長いことから,分布数緩和には励起子-励起子散乱の寄与もあることが分かった。これらの研究成果は,平成15年8月にニュージーランド・クライストチャーチで開催された固体の励起状態における動的過程国際会議(DPC2003)で発表した。
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