本研究の目的は、「テンプレート」(鋳型)によって誘導される有機結晶の不均一核形成の動的なメカニズムを解明することである。そのために主として放射光X線解析による、テンプレート誘導核形成現象の「その場観察」を行なう。結晶成長の環境としては、バルク溶液と分散系水中油型(O/W)エマルションをとりあげ、結晶化させる物質としてアルカンと植物油脂を用いる。テンプレートとして、バルク溶液系では蒸着薄膜、エマルション系では両親媒性長鎖状分子の界面吸着膜を作成した。誘導される有機結晶の不均一核形成の速度論を放射光X線回折とDSCの同時測定により、テンプレートの形成による誘導核形成現象をその場観察した。具体的には、以下の結果が得られた。 1)アルカンのO/Wエマルション中の結晶核形成を、等温条件で観察した結果、添加物により、偽ヘキサゴナル型-斜方晶型の結晶が核形成した後に、三斜晶型の結晶が核形成することが確認された。 2)エマルションからの植物油脂の結晶化においては、添加物による結晶化温度の上昇と、結晶化する多形が準安定多形から安定多形に変化することが判明した。 3)バルク溶液系では、蒸着薄膜を過飽和溶液に導入することで、結晶の配向・多形・核生成速度が制御できることが判明した. 以上の結果を、界面におけるテンプレートによる不均一核形成モデルで説明した。エマルションの場合は添加物が界面に吸着した後に結晶化してテンプレートになるが、バルク溶液系の場合は、蒸着薄膜と溶質との間のエピタキシャルなテンプレート関係が成り立つことが判明した。
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