今年度の成果[1] 量子ドットの超格子の電気伝導を、両端に2端子の電極に接続された2次元の有限Hubbardクラスターの電気伝導度を用いて調べた。昨年度までに、平均電子数が整数でバンドが半分満たされた状況(ハーフ・フィルド)の場合に計算を行っていたが、今年度は電子数の変化を取れ入れ、電子間相互作用の2次摂動理論に基づき、絶対零度における電気伝導度を調べた。電子相関の効果は、共鳴状態の幅、位置等に対するよるシフトに現れる。さらに、この系の電気伝導における不純物散乱の影響、および2量子ドット系の多体透過係数を調べ、これらの詳細を論文として公表した。 今年度の成果[2] 量子ドットなどの微小な系の輸送現象では位相の情報と電流の保存の両方が重要となるため、基礎となる理論的枠組みさえ必ずしも自明でない場合が多い。我々は、以前に微小な系の電気伝導に関する線形応答理論に基づく一般的な微視的理論定式を提出した。今年度は、この定式化をさらに発展させ、多体透過係数が実時間における電流演算子の3点相関関数を用いて書き表されることを示し、論文として発表した。この表式は、数値計算等による輸送現象の研究にも応用しやすい利点がある。 今年度の成果[3] これまで我々の研究は、主として解析的手法のよる一般論、および摂動展開を用いた計算による解析を用いて進められてきた。今年度は、電子相関と非平衡統計力学を考慮した数値的な計算法の開発を目的とした。我々は、まず平衡系で有効な数値くりこみ群法を、線形応答領域において、ABリング、ナノ・メータサイズのMott-Hubbard絶縁体の輸送係数、量子ドットを介したJosephson効果などに適用し、その内容を内外の学会で発表した。現在、論文を準備中であり、今後の非線形応答領域への拡張を念頭に、さらに研究を進めている。
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