今年度は主として、リラクサー強誘電体モデルの調査を行った。とくに、1999年に提案されたR.Blinc教授等のSpherical Random Bond Random Field(SRBRF)モデルについて検討した。このモデルの要点は、分極によるエネルギーが等方的であること、大きいクラスターほど分極が大きく、誘電率に対する寄与が大きいことである。一方、石橋が指摘したように、リラクサー強誘電性を示す酸化物混晶系にあって、モルフォトロピック相境界(MPB)近傍では、自由エネルギーが秩序変数空間でほとんど等方性になり、コンプライアンスが大きくなる。この事惰は、SRBRFモデルと類似しているが、SRBRFモデルは現実の系に適用するにはあまりに数学的すぎるので、MPBモデルに近い形式に書き直すことを試みている。 リラクサー強誘電体をモデル的に考察するには、何らかのランダムネス(たとえば転移温度の空間分布、組成の空間分布、あるいは、いわゆるRandom Field等)の導入が必要であるが、Smolenski-Rolovが仮定した転移温度の分布のみではなく、ランダウ型自由エネルギーの4次項(組成に依存することがわかっている)の分布を仮定したモデルを考慮中である。このモデルでは、MPBをはさんで、正方晶側と三方晶側では、誘電率の温度依存性に差異が予想される。 リラクサー強誘電体をミクロにみた場合、分極方位の異なる領域が接して存在する。それらの間の相互作用は個々に検討する必要があるが、分極変調が縦波型、従って反電場の考慮が不可欠な典型的なケースとして、90度分域壁を考察し、理論を発表した。
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