ナノメートルサイズの磁性細線やSTM先端チップを対象に、微小な領域に磁壁が生じた場合の磁壁近傍でのスピン揺らぎの動的な効果について研究を行った。さらに量子スピン系の素励起と電子の輸送係数に対する影響に的を絞り、 1.磁性細線中に生じた磁壁に起因した素励起の磁気抵抗への影響 2.磁性原子で構成されたSTM端子先端の原子架橋におけるスピン揺らぎの影響 を中心に理論的な研究を行った。 平成14年度は、先ず量子スピン系に対し乱雑位相近似(RPA)を適用して、動的帯磁率の表式を導いた後、それを数値的に求めるための基本プログラムの開発を主に行い、動的帯磁率から求まる励起スペクトルに対し、サイト数、異方性エネルギーその他のパラメータや、細線の形状などがどのような影響を与えるのかという点に焦点を当てて解析を行った。得られた結果は日本物理学会第58回年次大会において「強磁性ナノワイヤにおけるスピン揺らぎの励起スペクトル」という題目で発表し、さらに学会誌に論文として発表した。 平成15年度は、STM端子先端の原子架橋におけるスピン揺らぎの影響を中心に研究を行った。チップが上下に分離していくと磁壁の存在によりスピン波励起のギャップ中に発生した励起は消滅してしまうことなどを含め、日本物理学会の秋季大会と第59回年次大会において「強磁性ナノコンタクトにおけるスピン揺らぎと磁壁の効果」および「強磁性ナノコンタクトにおけるスピン揺らぎへの磁壁の影響」という題目で発表を行った。今後、これらの成果を磁気メモリの安定性の研究などに応用していく予定である。
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