研究概要 |
光電子分光とオージェ電子分光は表面研究手法として広く利用されている。しかしながら、オージェ過程の詳細に関する基礎研究は発展途上にあり、個々の表面原子サイトを選別したオージェ、shake up内殻励起に由来するオージェ、カスケードオージェなど、興味深い現象はほとんど解明されていない。そこで我々は特定の内殻光電子と同時に放出されるオージェ電子を選別して測定する新しいオージェ-光電子コインシデンス分光(Auger-photoelectron coincidence spectroscopy,APECS)装置を開発した。 APECS装置は同軸対称鏡型電子エネルギー分析器と外径φ26のミニチュアダブルパス円筒鏡型電子エネルギー分析器(CMA)、xyz位置・ティルト調整から構成される。本装置を用いて、凝縮SiF_3CH_2CH_2Si(CH_3)_3の異なる2つのSiサイト(Si[F]、Si[CH-3])についてSi LVVオージェ-Si 2p光電子コインシデンススペクトルを高分解能で測定した結果、分子軌道法に基づく計算で求めたスペクトルと定性的に一致することを見出した。また、Si LVVオージェ-H^+、F^+光イオンコインシデンススペクトルと比較し、F^+はSi[F]2pイオン化→Si[F]LVVオージェ→F^+脱離、H^+は主としてSi[CH_3]2pイオン化→Si[CH_3]LVVオージェ→H^+脱離、という過程で脱離することを見出した。 また、Si(111)表面のSi LVVオージェ-Si 1s光電子コインシデンススペクトルを高分解能で測定した結果、Si 1sイオン化→Si KLLオージェ→Si L殻2正孔状態からのSi LVVオージェ→Si価電子正孔の非局在化→Si LVVオージェという順序でカスケードオージェが進むことを見出した。
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