重い電子系では、近藤温度と呼ばれる特徴的エネルギーが数十度と小さく、圧力を変えることによって反強磁性と超伝導の間の相転移を人工的に起こすことが可能である。こうした量子臨界点近傍の振る舞いの解明は現在の物性物理学の重要課題であるが、それにたいする軌道縮退の効果を調べることが本研究課題の中心テーマである。軌道縮退の効果を取り入れるには、希土類金属で用いられているLS結合スキームと、スピン軌道相互作用が強い場合に成り立つj-j結合スキームがある。当研究課題で主に扱ったアクチノイド系ではLS結合スキーム成り立つ場合とj-j結合スキームが良い場合の中間にあると考えられるが、われわれは一貫してj-j結合スキームに基づいて軌道揺らぎの効果を考察した。電子間相互作用が本質的な役割を果たしている重い電子系では、多体問題を摂動的に扱うことが可能なj-j結合スキームが適していると考えられるからである。当研究課題の主な成果として次の諸点をあげることができる。 (1)Ce115系を対象として、軌道縮退を考慮した有効ハミルトニアンを構築しその磁気的性質および超伝導の性質を理論的に調べた。超伝導が発見されたPuCoGa_5の電子状態の特徴を明らかにした。 (2)重い電子系的振る舞いが報告されているLiV_2O_4の大きな有効質量の起源を理解するために、パイロクロア格子上の拡張ハバード模型を考察し、そのスピンゆらぎ、軌道ゆらぎおよびスピン軌道が結合したゆらぎの性質を明らかにした。 (3)UGe_2の超伝導の起源に関連し、軌道縮退を考慮した有効ハミルトニアンを構築し、一様強磁性金属相の間の一次相転移の可能性について理論的考察を行った。
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