スピンダラー銅酸化物Sr_2Ca_<12>Cu_<24>O_<41>は3GPa(3万気圧)の圧力下で超伝導になる物質として広く知られている物質である。しかし、この系は高圧をかけて初めて超伝導になるため、今日でさえ物理的特性はあまり良く解っていない。3GPaの高圧下ではキュービックアンビルを用いた抵抗測定等のマクロ測定法が確立している。物質のミクロ測定には核磁気共鳴法(NMR)等共鳴実験手段による高圧下測定が必要である。しかし、上述のキュービックアンビル法は核磁気共鳴(NMR)を含む微視的観点からの計測には使えない。なぜなら多量の試料を必要とするからである。これらの計測には、クランプ方式の圧力セルが有効であるが、通常2.5GPaが限度である。この事実が超伝導状態の詳しい調査を阻害してきた。実際、Ca置換などにより、梯子格子上のキャリアを変えた実験はおこなわれているが、いずれも超伝導状態近傍の周辺的研究に留まっていて、肝心なことは何も解っていないことからも、3GPaの障害が如何に大きいか計り知れる。 本研究では、市販されていない極めて特殊なNiCrAlの合金を圧力セルの中に使い、3.5GPaまで出すことに成功した。このことによって1996年に遡る超伝導の発見以来未解決であった微視的視特性を研究が可能となった。 我々はナイトシフトと緩和率(1/T_1)の測定を3.5万気圧で行い、フルギャップの開いた超伝導状態が実現していることを明らかにした。この状態はパウリ限界近くの高磁場でさえ極めて安定で、一重項対形成に対応するナイトシフトの現象が転移温度(T_c)前後で観測されていない。このことは三重項対形成の可能性を示唆するものである。さらに超伝導ギャップだけでなくT_c以上のノーマル状態でスピンギャップを観測した。この事実は局在スピン的性質をもった異常な金属状態が実現していることを意味している。スピンギャップと超伝導ギャップは別々の温度領域で観測されたが、これは高温超伝導体の場合と極めて対照的である。
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