本研究期間中、強磁性強誘電体実現の指針に沿って候補となる物質をいくつか探索した。その中でもペロブスカイト型マンガン酸化物TbMnO_3に注目した。この物質は巨大磁気抵抗効果を示すホールドープされたペロブスカイト型マンガン酸化物の母物質の一つで、モット絶縁体である。この物質では斜方晶ゆがみが非常に大きいために、Mnスピン間の最近接、第二近接相互作用の大きさ同じくらいになっでいる。このために、低温でMnスピンが整合あるいは非整合秩序化している。我々はこのTbMnO_3の大型で良質な単結晶試料を浮遊帯域溶融法により作製することに成功した。これによって、構造解析、誘電特性の測定が可能になった。この単結晶試料を用いた放射X線回折実験により、スピンが整合/非整合秩序を生じると同時に、格子及び軌道にも整合/非整合秩序が生じることが明らかとなった。このうち、スピン、軌道、格子の整合秩序が生じる温度領域では、特定の結晶軸方向に自発分極を持つ強誘電性が発生していることが判明した。更に、本物質に磁場を印加することにより、この自発分極は別の方向へとフロップを起こす、いわば磁場誘起強誘電分極フロップ現象という新規な物性を発見した。これは、大きなスピンを有するTb^<3+>スピンが低温で磁場によりフロップし、それに伴いTb-Mnスピン間の相互作用を通してMn^<3+>のスピンがフロップする。このMnイオン内のスピン-軌道-格子相互作用により、磁場誘起強誘電分極フロップ現象が発生していると思われる。
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