研究概要 |
バルクに導入された磁性或いは非磁性不純物の効果を考える場合、バルクの電子状態を知ることが不可欠であるが、電子相関が強い銅酸化物系に対しては、理論的に確立した知見がほとんど無い。そこで、今年度は、2次元ハバードモデルに対し、相互作用U/tや電子密度nに依存したバルクの性質を、変分モンテカルロ法によって調べ、以下の成果を得た。その際、波動関数としては、定性的にも不都合のあるGutzwiller射影(0次)を超えた、強相関展開の2次及び4次の一部の効果を取り入れた改良型射影演算子を用い、0次の短所を克服した。次近接ホッピングt'を入れない基本的な場合の場合をまずまとめる。(a)ハーフフィリング(n=1,非ドーピング)の場合は、U/tの全領域で反強磁性秩序が現れる。最低エネルギー状態ではないが、d波超伝導状態も常磁性状態よりは安定で、U=Usi〜6.5tで超伝導-絶縁体転移を起こす。(b)ドープされた場合(n<1)、反強磁性状態はそれ自身不安定で、相分離を起こし、d波超伝導状態が安定な領域が広がる。d波超伝導状態は、U=Uco〜12tでその性質がBCS型から強相関型へとクロスオーバーする。U<Usiでは超伝導の安定化は微小だが、U>Usiでは十分に安定化する。ポテンシャルエネルギーの低下が超伝導を引き起こすBCS型とは異なり、強相関型の領域では運動エネルギーが超伝導の起因となっている。最近の銅酸化物の光学伝導度の実験は、運動エネルギーの低下を示唆しており、我々の結果と比較して、強相関型の超伝導だと考えられる。次にt'を導入した場合を述べる。(a)t'/t<0の場合は、d波超伝導状態が安定化される一方、反強磁性状態は著しく抑制される。(b)t'/t>0の場合は、その逆である。(c)銅酸化物との比較ではt'/t<0はホールドープ系、t'/t<0は電子・ホール変換によって電子系と対応するが、いずれもARPESなどの実験やバンド計算と一致した結果である。
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