モット転移近傍の電子状態では、特徴的なエネルギースケールが電子相関効果によって繰り込まれて小さくなるため、軌道やフォノンなどの効果が電子状態に対して大きな影響を与え、同時にこの電子状態の大きな変化が、軌道やフォノン状態に対して大きな反作用を与える。本研究では、動的平均場理論を用いて、第零近似として運動エネルギーとクーロン相互作用に加えてさらにフント則結合、電子フォノン相互作用を同等に且つコンシステントに取り扱うことにより、多種類の相互作用の効果が拮抗する系のモット転移を正確かつ統一的に調べた。ここで用いた動的平均場理論は、摂動展開理論とは異なり模型のすべてのパラメータを同等にコンシステントに取り扱うことのできる手法であり、これまで様々な模型の研究に用いられてきたが、多種類の相互作用の効果が拮抗する複雑なモット転移の問題に適用されたのは本研究が最初である。具体的な成果を以下に示す。 (1)軌道自由度のあるハバード模型のモット転移 軌道縮退したハバード模型のモット転移を線形動的平均場理論により調べ、モット転移点を軌道縮重度と電子数の関数として解析的に求めた。さらに、フント則結合の効果によりモット転移が1次転移として起こることを明らかにした。 (2)電子間相互作用と電子フォノン相互作用のある系のモット転移 ハバード相互作用Uと電子フォノン相互作用gの全領域で、モット転移の相図を求めた。Uが大きな領域ではスピン揺らぎが臨界的に増大するモット転移、gが大きな領域では電荷と格子の揺らぎが臨界的に増大するモット転移が起こる。さらに、両者がともに大きな場合に、この2つのモット転移に挟まれた領域で興味ある金属状態が実現することを明らかにした。
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