本研究の大きな柱であるCeIn_3およびCeRhIn_5の量子臨界圧力近傍のフェルミ面の変化を明らかにするため、昨年度に引き続き量子臨界点を超える圧力での実験をおこなった。 CeIn_3はネール温度が約10Kの反強磁性体で、2.5〜2.7GPaの圧力でネール温度が消失し、その近傍の圧力で超伝導が観測される。本年度は3GPaまでの圧力下のdHvA効果の実験を行った。その結果、2.7GPa以上の圧力で、9x10^7Oeの大きな球状のフェルミ面を観測した。量子臨界圧力以下でのCeIn_3は反強磁性状態であるため、その磁気的なブリルアンゾーンの折りたたみにより大きな主要フェルミ面は小さいフェルミ面へと分断されてしまっているものと考えられている。したがって臨界圧力より高い圧力で大きな主要フェルミ面が出現したことは、CeIn_3が常磁性状態へと変化したことを意味している。常磁性状態になる可能性としては、(1)反強磁性状態から磁場誘起の強磁性状態へと変化した可能性と、(2)4f電子が磁気的な局在状態から常磁性的な遍歴状態へと変貌するという2つの可能性が考えられる。前者の場合、参照系LaIn_3のフェルミ面と同程度の大きさ7x10^7Oeが期待されるが、2.7GPaで観測されたCeIn_3のフェルミ面はそれよりも大きく後者の可能性が示唆される。この点を明らかにするために、別の参照物質ThIn_3のdHvA効果の実験を行った。ThIn_3においてThは4価であり、4f電子が遍歴したCeの価数と等しい。この実験の結果、ThIn_3の主要フェルミ面は、2.7GPaより高圧のCeIn_3の主要フェルミ面と同じ大きさを持っていることがわかった。以上の結果から、CeIn_3の4f電子は、量子臨界圧力の前後で、局在的な性質から遍歴へと変貌することが明らかとなった。
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