研究概要 |
低次元量子スピン系物質,有機磁性休などの分野において,顕著な量子効果により基底一重項状態が実現するスピンギャップ系の研究が,強相関物質との関連で最近注目されている. 我々は,有機低次元量子スピン系物質の加圧下での磁化および帯磁率の精密測定を行い,ギャップ温度あるいは転移温度以下の低温域で加圧に伴って誘起される大きな常磁性成分が存在し,逆にスピンギャップ成分あるいは低次元磁性成分が減少するという,圧力誘起異常磁性を初めて観測した.このような圧力誘起異常磁性のメカニズムを解明する為に,平成14,15年度の2年間で,3種類のスピンギャップ系物質((1)ハルデン系物質Ni(C_5H_<14>N_2)_2N_3PF_6,(2)量子梯子型物質Cu_2(C_5H_<12>N_2)_2Cl_4,およびこの物質のClをBrで置換した類似の物質,(3)SP物質MEM-[TCNQ]_2,およびこの物質のメチル基をエチル基で置換した類似物質DEM-[TCNQ]_2等)の良質な試料作成(合成ならびに単結晶作成)を行い,加圧下での磁性の精密測定を行うとともに,MEM-[TCNQ]_2については単結晶を用いた加圧下直流帯磁率の結晶軸依存性などの測定を行って,顕著な異方性があることを明らかにした.さらに,微視的な測定手法である電子スピン共鳴(ESR)を加圧下で行うために,現有のESR装置(日本電子JES-RE2X型)に組み込んで使用できる圧力セルを開発し,MEM-[TCNQ]_2の単結晶の加圧下でのESR吸収スペクトルが大きく変化する事を明らかにするとともに,このスペクトルの温度依存性の解析により,巨視的な磁性である帯磁率の加圧下での温度依存性との関連を明らかにした.
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