試料中に「微視的に存在する2相(反強磁性、隠れた秩序をもつ常磁性)の体積分率が競合している」というまったく新しい知見が得られた。本課題では「圧力下で発生した反強磁性領域での超伝導ギャップについての情報を得ること」を主な研究目的とした。しかし圧力印加とともに超伝導転移温度は1.5Kから下がるので、超伝導エネルギーギャップの構造を知るには、核磁気緩和率を20〜30mKくらいの十分低温まで測定する必要があった。NMR用には比較的大きな高圧セル(2GPaまでの耐圧設計、外径20mm、高さ90mm)が必要なこともあって、既設の希釈冷凍機の冷却能力では、250mK付近までしか温度が下がらなかった。希釈冷凍機内にセットされたセルで反強磁性領域からの弱いSiのNMR信号が観測されたが、緩和率の温度変化までの測定は出来なかった。さらに、常伝導状態ではあるが、高圧下で発生する反強磁性は一様なもので磁気モーメントも0.3μBの大きさが保たれていることが高圧SiNMRでわかった。一方UPt3では、高圧によりスピンのゆらぎをおさえて、異常に小さい磁気モーメントの知見を外国製濃縮195Ptを用いたNMRによって得るのが目的であった。残念ながらこの195Ptは濃縮度が99.8%であるのは確かだが、フランス製、アメリカ製ともPtの化学的純度が非常に悪かった(99.0〜99.3%)。少なくとも99.9%以上の純度の原試料で作製したUPt3でないと、過去報告された多くの超伝導状態での実験結果と異なる結果が出るだろうと予想でき、試料作製計画を断念した。ただ本課題の遂行期間中、非フェルミ液体のふるまいをしめす圧力誘起超伝導体CeRhIn5の合金系でのNMRや圧力下でスピン揺らぎを抑えたCeCoIn5系での核磁気緩和率の測定等をおこない、国際会議や雑誌等で結果を発表した。
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