本研究は極低温走査トンネル分光(STS)を行うことにより、銅酸化物高温超伝導体の磁束量子の電子状態を調べることを目的とした。対象としたのは、Bi_2Sr_2CaCu_2O_x及びいまだSTSによる測定例がないLa_<2-x>Sr_xCuO_4である。 Bi_2Sr_2CaCu_2O_xにおいては、1.磁束量子内の準粒子束縛状態の詳細及び 2.乱れた磁束量子の配置の中の局所的な正方格子の観察に成功した。この結果から磁束量子は異方的超伝導の対称性を反映した方向に局所的に格子を組み、準粒子束縛状態はフェルミ面を挟んで非対称になっていることを見いだした。 一方La_<2-x>Sr_xCuO_4では、目的とした磁束量子の観察には至らなかった。これは、La_<2-x>Sr_xCuO_4では表面が非常に不安定であることが原因となっている。実験的にはより低いコンダクタンスでの測定ができるような工夫が必要である。しかしながら、この研究の過程で以下のようなことが明らかになった。1.最適ドープのLa_<2-x>Sr_xCuO_4において超伝導ギャップは数nm程度で空間分布しているが、大きさの分布はBi_2Sr_2CaCu_2O_xで観察される分布に比べて非常に小さい。2.超伝導ギャップの大きさの分布よりもゼロバイアスコンダクタンスの分布の方が顕著である。これらの結果は銅酸化物高温超伝導体におけるミクロな電子状態の分布の原因、役割を考える上で興味深い。また磁束量子の観察が難しいのは、磁束量子による電子状態の空間変化が小さく、観察されたミクロな電子状態の変化と同程度の大きさになっているためと考えられる。
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