スピン系の多体現象に対する量子性とランダムネスの効果に関する研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14540351
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 高山 一 東京大学, 物性研究所, 教授 (40091475)
• 研究分担者: 福島 孝治 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (80282606)
• キーワード: 非磁性不純物誘起ネール長距離秩序 / 量子的非磁性基底状態 / 量子モンテカルロ法 / スピングラス / エイジング現象 / 液滴描像 / 累加的記憶効果 / 温度カオス効果

研究概要

量子的非磁性基底状態をもつ、ポンド交替鎖が結合した2次元反強磁性ハイゼンベル模型におけるランダムネスの効果について量子モンテカルロ法による大規模シミュレーションを行い、1)サイト希釈の場合は無限小の希釈濃度で古典的ネール状態が出現するのに対して、ボンド希釈の場合は有限の臨界濃度以上でのみネール状態が出現すること(非磁性不非物誘起ネール長距離秩序)、2)両者のネール秩序は、主に、希釈サイト・ボンドに隣接したサイトに生じる'自由スピン'が担うこと、等を明らかにした。
ランダムネスとフラストレーションが共存するスピングラス(古典スピン系)におけるエイジング現象の解明を目指して、モンテカルロ法による大規模シミュレーションを行い、以下のような新たな知見を得た。1)4次元イジングEAスピングラス模型のエイジング現象を詳しく解析し、これが、拡張された液滴描像で理解できることを検証した。特に,等温エイジング過程におけるスピングラスドメインの成長則に対するスケーリング解析により、スピンのダイナミックスが転移温度近くの臨界領域からより低温側の熱活性化過程の領域へクロスオーバーする様子を捉えることに初めて成功した。2>3次元イジングEA模型の温度シフトエイジング過程における複素交流磁化率を調べることにより、温度シフト幅が小さい場合、スピングラスドメインサイズは温度シフトでも不連続なとびはなく、シフト後の温度における成長則に従って成長を続ける(累加的記憶効果)のに対して、シフト幅がある程度大きいとこの累加的記憶効果が成立しないことを明らかにした。後者は、スピングラス相のもつ温度カオス効果を強く示唆する、初めてのシミュレーション結果である。3)3次元ハイゼンベルグスピングラス模型におけるエイジング現象を解析ずる準備として、転移温度より高温側のスローダイナミックスを解析し、異方性エネルギーがない模型における、絶対零度の転移温度へ向かう動的臨界特性を明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] H.Takayama, K.Hukushima: "Numerical Study on Aging Dynamics in the 3D Ising Spin-Glass Model. III. Cumulative Memory and 'Chaos' Effects in the Temperature-Shift Protocol"Journal of Physical Society of Japan. 71. 3003-3010 (2002)
• [文献書誌] M.Matsumoto, K.Hukushima, H.Takayama: "Dynamical Critical Phenomena in Three-dimensional Heisenberg Spin Glasses"Physical Review B. 66. 104404-1-104404-9 (2002)
• [文献書誌] H.Yoshino, K.Hukushima, H.Takayama: "Extended droplet theory for aging in short-ranged spin glasses and a numerical examination"Physical Review B. 66. 064431-1-064431-26 (2002)
• [文献書誌] C.Yasuda, S.Todo, M.Matsumoto, H.Takayama: "Dilution Effects on Two-Dimensional Heisenberg Antiferromagnets with Non-Magnetic Spin-Gapped Ground State"Progress of Theoretical Physics, Supplyment. 145. 221-224 (2002)
• [文献書誌] C.Yasuda, S.Todo, M.Matsumoto, H.Takayama: "Bond-Dilution Effects on Two-Dimensional Spin-Gapped Heisenberg Antiferromagnets"Journal of Physics and Chemistry of Solids. 63. 1607-1610 (2002)