研究概要 |
幾何学的フラストレーションによって誘起された金属絶縁体転移の理論......幾何学的フラストレーションを有するパイロクロア系物質において実験的に観測されている金属絶縁体転移を理解する最初のステップとして、パイロクロア格子上のs-軌道による単一バンド・ハバード・モデルにおける電子相関効果について調べた。繰り込み群を用いた解析から、低温で金属絶縁体転移が起こることが示された。この低温相の性質を平均場を用いて調べると、絶縁体状態では、スピン励起にギャップが有るが、スピン回転対称性は破れていない、いわば、スピン液体状態になっていることが示された。さらにこの絶縁体状態は電荷秩序を伴っていることも示された。これは幾何学的フラストレーションを和らげるために、電荷の再配置が起こった結果と考えられ、これまで知られていなかった新しいタイプの電荷秩序の機構である。また、面白いことに、この電荷秩序のパターンは、スピネル系化合物、AlV_2O_4において観測されているものと類似している。この系のV-サイトも頂点共有四面体ネットワーク構造を有しており、また、最近のバンド計算(H. Harima, unpublished)によるとVのt_<2g>^-軌道が結晶場でa_<1g>とe_gに分裂し、さらにa_<1g>の成分がAlのs-軌道と弱く混成してs的な性質を帯びるために、d-電子であるにも関わらず、上述のs-軌道モデルのようにフラット・バンド的な部分があらわれるとされている。従って、この研究で発見された電荷秩序機構が、AlV_2O_4の電荷秩序において主要な役割を果たしている可能性があり、今後、この方向での研究を発展させていきたい。
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