本年度は以下のテーマについて成果を得た。 ●強磁性臨界点近傍における超伝導の厳密解……磁気的な揺らぎによる超伝導の発現機構は古くから研究されているが、電子と磁気揺らぎとの強い相互作用を扱う根拠の明白な近似は実はこれまで確立されておらず、この機構による超伝導を議論するうえで、一つの理論的困難であった。この点について何らかの有益な知見を得るため、本研究では、強磁性揺らぎによる超伝導を実現する現実的なモデルを考察し、その厳密解を与えることに成功した。その結果、これまで計算の困難さゆえに無視されていた相互作用過程が強磁性揺らぎによる超伝導の転移温度を決定する上で重要な役割を果たし、磁気揺らぎによる電子間引力の遅延効果を増強し、その結果、超伝導転移温度が著しく上昇することが分かった。これまでの理論研究では、強磁性揺らぎによる超伝導転移温度は非常に低く見積もられており、強磁性揺らぎが超伝導発現機構に関わっているとされるUGe_2などの超伝導を説明する上で不十分あったが、本研究の結果は、強磁性ゆらぎによっても現実的な超伝導の転移温度が説明できることを示しており、その意義は大きいと言える。 ●2次元量子スピン系における量子液体状態の理論的可能性について……幾何学的フラストレーションを有する2次元量子スピン系において長距離磁気秩序の存在しないスピン液体状態が基底状態として実現するかどうかは、約30年前にAndersonがその可能性を議論して以来、理論、実験両面において盛んに研究されてきているが、今日未だ明確な解答は得られていない。本研究ではこのような量子液体状態を実現する上で重要であると考えられる多重リング交換相互作用の効果について考察した。特に2次元蜂の巣格子上および正方格子上で定義されたs=1/2の量子スピン系を考え、多重リング交換相互作用がある特別な形で与えられている場合には、量子スピン液体状態が厳密な基底状態として実現することを示した。なお本研究の結果については現在投稿中である。
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