研究概要 |
量子モンテカルロ法を用いて量子スピン系において新奇な基底状態や臨界現象が実現される可能性を探索した.また,そのために新しい量子モンテカルロ法のためのアルゴリズムの開発もあわせて行った.まず,原田・川島(2002)において,正方晶の対称性をもつ量子XYモデルの相図を調べた.この結果,異方性の強い極限における秩序相は,無限小のサイト間相互作用に対して不安定であることを示唆する結果を得た.次に,原田・川島・トロイヤー(2003)において,強相関電子系との関連で最近興味が持たれているSU(N)対称性をもったモデルの基底状態を調べた.このモデルはよく研究されているSU(2)対称性をもつハイゼンベルク反強磁性体をより高い対称性の場合に自然に拡張したモデルになっている.またSU(4)モデルは強相関電子系のモデルである2バンドハバードモデルのある極限に対応している.以前の研究ではSU(2),SU(3)モデルは基底状態が自発的対称性の敗れたネール状態であるのに対して,SU(4)モデルは基底状態でも対称性のやぶれないスピン液体的な状態であるとされていた.しかし,われわれの計算の結果,SU(4)モデルの基底状態はやはり自発的対称性の敗れた状態であることが明らかになった.更に,われわれは一般のSU(N)モデルについて,Nが4以下では基底状態がネール状態,Nが5以上では基底状態がダイマー状態であることを見出した.すなわち,どのようなNの値に対しても,基底状態はスピン液体的ではなく,つねに対称性がやぶれたギャップのない状態であることを見出した.
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