今年度は電子系におけるスピンの効果を調べた。スピンの自由度は電荷の自由度と並ぶ電子の重要な特徴であるが、デバイスに利用されることは最近まではあまり行われてこなかった。しかしながら近年、巨大磁気抵抗の発見、量子コンピュータの提案などでこのスピンの自由度を積極的に利用する試みがなされている。このスピンが量子輸送現象にどのようにかかわってくるか、数値的に研究した。 スピンの散乱を起こすメカニズムとしては、磁性不純物、磁壁、スピン軌道相互作用を考えた。まず、スピン散乱がある場合の普遍的コンダクタンスの揺らぎ(UCF)を詳細に調べた。また、端子の状態によりどのようにUCFが変化するかを明らかにした。こうした研究で用いたアルゴリズムは転送行列法である。従来、この転送行列法はスピンの自由度が無視でき、端子にゼーマン分離がない場合に適用されていたが、その双方を取り入れることに成功した。 現在、この手法をさらに洗練し、3端子形状を扱えるようにして研究を行っている。 また、東邦大学の渡辺、河原林、小野らとともに時間に依存したポテンシャルを考えることでdephasingを生じさせる手法について研究し、これをスピン軌道相互作用の強い2次元の金属絶縁体転移に応用した。
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