幾何学的スピンフラストレーション系に特有な磁区成長過程を、ワニエ状態から部分的に縮退が解けた二等辺三角格子反強磁性体のモデル物質であるCoNb2O6を用いて、帯磁率、中性子散乱実験を通して調べた。定性的には磁壁の曲率の最小化が駆動要因ではなく、磁区境界の分子場がcancelした磁気鎖のStochasticな反転が駆動要因であるため数時間にわたる遅い長時間ドメイン成長過程が起こると考えられる。 (1)磁性イオンCo2+を非磁性イオンMg2+で僅かに希釈することにより磁区成長を司る磁気鎖のStochasticな反転を制御したところ、0.5%程度の希釈では低温で反強磁性基底状態が生き残るが、その磁区成長過程では二等辺三角格子の幾何を反映して異方的なpinningによる磁区成長の異方的な抑制効果が見られた。また1%の微量希釈では、反強磁性基底状態が位相分断され消失し見かけの不整合相を与えることが明らかになった。 (2)これまで明らかにしてきた磁場クエンチ後の反強磁性相時間のベキ則(、成長指数n〜0.2という、onventionalなイジング磁性体の持つ成長指数n=0.5と比べ非常に小さい値をとる)で記述される磁区成長過程の温度依存性をHMIでの中性子散乱実験により測定する事により温度因子C(T)を決定した。C(T)はで良くフィッティングする事ができ、〜10Kである事が示された(はある種のエネルギー障壁であり、この系における磁区成長過程のメカニズムを解く鍵の一つになると考えられる)。(3)フェリ相内では、交流帯磁率測定から特定磁場(Hs〜13000e)における磁区成長が示唆されていたが、それを中性子散乱実験で直接検証を行った。フェリ相内での平均ドメイン長の時間変化は、三軸中性子分光器のQ分解能では磁区成長過程を直接観測するに至らなかったが、磁気錯乱の線幅の磁場依存性から間接的にその存在を確認できた。
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