液体に浸された固体表面(伝熱面)から液体への熱伝達は、伝熱面からの熱流束の増加につれ、非沸騰状態から核沸騰状態さらに膜沸騰状態へと転移する。我々は、1K以下の極低温において、液体ヘリウム3の沸騰熱伝達特性を、伝熱面とバルクな液との間の温度差と熱流束の測定より調べた結果、核沸騰状態では、他の低温流体に適用されている関係式から定性的にも定量的にも大きくずれることがわかった。そこで液体ヘリウム3の核沸騰状態における気泡の発生を、可視化によって直接観測することにより、沸騰熱伝達特性を微視的な立場から解明するのがこの研究の目的である。 室温部に置いた光源から発した光を、グラスファイバーにより低温部の測定セルに導き、液体を透過した光をイメージファイバーで室温部に導き、高速度カメラ(500フレーム/秒)で撮影した。気泡の形、気泡発生から離脱までの時間、伝熱面離脱時の気泡の径、気泡発生頻度を、熱流束および温度の関数として測定した。 可視化測定の分解能を上げるために、室温部に光学窓を持つヘリウム3クライオスタットを製作した。ジュール・トムソン効果を利用してヘリウム3を液化し、それを減圧して低温を得る冷凍機で、最低到達温度は0.35Kであった。室温部に光学系が全てあるので、十分な光路長をとることができ、試料部を低温に冷却した状態においても撮影位置の調整や光学系を自由に組替えて光学測定をすることが可能になった。観測の視野を広げるために、現在、試料セルの壁を円柱のパイレックスガラスから、フラットな石英ガラス窓に変えた測定セルを製作している。来年度は、この装置系で精度を上げた測定を行い、一連の測定結果を纏める。
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