液体^3Heの核沸騰状態における気泡の発生と成長を、可視化によって直接観測し、沸騰熱伝達特性を微視的な立場から解明するために、二種類の可視化セルを製作して測定を行った。 初めのクライオスタットでは、室温から光ファイバーにより低温部のセルに光線を導き、液体^3He中の密度変化の情報を含んだ透過光をイメージファイバーにより室温部に取り出し高速カメラで撮影した。測定セルの形は、比較のために以前我々のグループが沸騰熱伝達曲線の測定に用いたものと同じにした。セルの壁が曲率をもつため視野は縦横約2mmであったが、個々の気泡の発生から離脱までの様子を鮮明に観測できた。その結果、伝熱面から発生する気泡は回転楕円体の形で、発生から離脱までの時間は、液体温度0.7K、熱流束8×10^<-5>W/cm^2のとき約14msecであり、液体窒素の離脱時間約340msecに比べて非常に短いことがわかった。 伝熱面全体からの気泡発生を可視化するために、次に室温部に光学窓をもつクライオスタットを製作した。測定セルの光学窓には平板石英ガラスを用いた。この測定から、熱流束と気泡数および気泡径の関係、気泡の上昇速度、気泡の発生頻度を求めた。気泡は初め孤立泡であるが、熱流束が増加すると合体泡となり、伝熱面の一部が気泡で覆われるようになる。 これらの観測より、以前測定した沸騰熱伝達曲線の傾きの変化について次のことがわかった。熱流束が小さい領域では、熱流束の増加とともに伝熱面からの気泡の発生頻度が急激に増加し、気泡による攪拌効果によって有効熱伝達率が大きくなる。さらに熱流束が増加すると、隣接する発泡点で発生する気泡が合体して、伝熱面の一部が蒸気で覆われるため沸騰熱伝達曲線の傾きが緩やかになる。 この研究で得られた知見は、液体^3Heを使って超流動^4Heなどを効率よく冷却する方法を考える上でも役立つ。
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