本研究の目的は、屈折率の虚部の効果を取り入れ、従来の群速度が破綻する領域において意味を持つ群速度の新しい定義の有効性を光学領域での実験的によって検証することである。通常の群速度では屈折率の"実部"のみを考えるが、共鳴吸収媒質中を伝播するパルスでは、Kromas-Kronigの関係によって必然的に存在する屈折率の虚部(吸収)の効果によってスペクトルがシフトする。チャーピングパルスでは、このスペクトルシフトに伴って大きなReshaping delayが現れる。インコレントパルスについては、従来、その伝播速度を議論する方法がなかった。本研究ではポインティングベクトルの時間積分の重心でパルスの位置を定義することで、意味のある速度が議論できることを示した。インコレントパルスのReshaping delayは、1つ1つのパルスではランダムに現れるが、統計平均化されるとReshaping delayは消え、重心はNet delayで伝播する。 理論的に新しく得られた知見を実証するために、平成15年度には、科研費交付金によって改良されたマイケルソン干渉計とチタンサファイアレーザーを基にした実験システムを使用し、パルス伝播の実験をおこなった。これらの結果から、新しい群速度の有効性が位相変調を受けたパルスの伝播においても確認できたと考えている。
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