研究概要 |
ソフトマテリアル系の基本構造である炭化水素系長鎖分子で最も簡単な分子構造を持つ、n-アルカンを用い、咋年度に引き続き真空蒸着膜の構造を調べた。真空蒸着時の蒸着速度、基板温度、基板種類等の成膜条件および分子鎖長が蒸着膜の構造、特に、基板に対する分子の配向に与える影響を系統的に調べる実験を昨年度から継続している。昨年度の炭素数奇数のn-アルカンを用いた検討に引き続き、今年度は炭素数偶数(C24,C26)のn-アルカンを用いた研究を行った。その結果、奇数アルカン同様、偶数アルカンでも蒸着速度が遅く、基板温度が高い程、基板に分子軸が垂直に配向(垂直配向)しやすいことが明らかになった。ここで、垂直配向領域のみの蒸着膜が得られる成膜条件は、炭素数偶数のアルカンの方が奇数アルカンよりも広いことがわかった。C23,C25,C27のバルク低温安定相は斜方晶系相(O相)であるのに対し、C24,C26では三斜晶系相(T相)である。出現する多形によって垂直配向になりやすさが異なることが明らかになった。 C24,C26の真空蒸着膜や基板上へ融液を展開し結晶化させた膜(融液成長膜)において、バルク結晶には見られない斜方晶系相(O相)や単斜晶系相(M相)などの準安定多形が出現することがわかった。O相は熱処理により容易にT相やM相へ転移する。しかし、M相とT相の間の転移は観測されなかった。2枚の基板で融液を挟んだ状態で結晶化させたC26膜では、基板上で結晶化させた場合と比較すると準安定相(M相)の割合が相対的に減少した。したがって、広い自由表面の存在が準安定多形の出現に深く関わっていると考えられる。 高分子系の炭化水素鎖の構造形成を探るため、ポリプロピレンの結晶化挙動を調べた。通常、炭化水素鎖は結晶相ではその分子軸を互いに平行に揃えて配列するが、ポリプロピレンでは、結晶相内で炭化水素鎖が交叉するγ相結晶が存在する。γ相結晶化における炭化水素鎖の配列のメカニズムを探る研究に着手した。
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