研究概要 |
強い混合能力は乱流の重要な特性のひとつである。それは,大気や海洋における汚染物質の浄化作用や,内燃機関における燃焼効率の促進,など実用的に重要であるとともに,ランダム変動する場の確率過程として数理物理学的な基本問題を提供する。本研究は,乱流における混合のダイナミックスの理解とその統計的性質の定量的な記述を主たる目的としている。すなわち,混合は流れのどのような部分でもっとも盛んに起こっているか,混合効率の促進や抑制は如何にして可能であるかなどを解明する。 昨年度は,流れの中でパッシブに流される物体の挙動を調べるために,もっとも基本的な幾何形状をもつ流体線と流体面を取り上げ,それらの乱流による変形ならびに伸張の数値シミュレーション可視解析を行い,パッシブ物体の伸張率を精度よく求めるためには,乱流運動の間欠性を考慮しなければならないことを統計的に明らかにした。本年度は,その間欠性の影響が乱流のどのような運動形態によってもたらされるかを具体的に示した。すなわち,乱流中には細長い管状の領域に渦度が集中した,いわゆる渦管が散在しているが,それらはしばしば渦度が互いに逆向きになるように接近し,乱流場の中を彷徨する。この反平行渦対の進行方向の前後に生起される双曲的よどみ点で強い伸張の生じることを理論ならびに数値的に示した。 さらに,流体線の伸張率のレイノルズ数依存性を調べると,レイノルズ数がある値(テイラー長レイノルズ数で100の程度)まではレイノルズ数の緩い増加関数であるが,レイノルズ数がその値より大きくなると伸張率は急激に増加するという驚くべき現象を発見した。この現象は,さまざまな乱流で普遍的に観測されるいわゆる乱流の混合遷移ではないかとわれわれは推測している。このことを説明するため,乱流に内在するさまざまなスケールのレイノルズ数依存性を現在調査中である。
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