本研究では、南極大陸の広帯域地震計に記録された波形(震央距離25-60度程)から、P・S波について上部マントル地震波速度構造を推定、地震波速度と温度の関係から大陸プレートの構造について考察を行った。その結果、大陸プレートが周囲のマントルにくらべて枯渇したマントル組成であることを示唆する貴重な結果を得た。更に、マントル組成と温度構造を背景にする、P波、S波の波形を一貫して説明できるモデルを、どこの大陸にも先駆けて、東南極大陸で構築した。 ニュージーランド南方の浅発地震に対する波形では、IASP91のPP(SS)波理論走時に先行して、顕著な地震波が観測される。地震波形と走時の理論計算をもとに、この地震波が、410km不連続上部を最深点とするP(S)波、地表とモホで各々反射するPP(SS)波で構成され、深さ約200kmまでの高速度リッドをもつ速度モデルで説明できることを明らかにした。また、観測されたP波波形は、リッドの深さ方向のP波速度変化が小さいことを示し、P波とS波の速度構造が異なることがわかった。 推定された速度モデルを、有限ひずみ理論をもとに、温度に換算した。マントルが一様な組成であると仮定すると、約600℃のリッドが約1300℃のマントル上にあることになる。リッド底部に、大きな温度勾配を予想する。しかし、安定大陸マントル内では考えにくい。一方、枯渇した古大陸マントル組成モデルをリッド内に仮定すると、リッドの温度は高く予想され、よりなめらかな温度変化となる。リッドで700-1100℃、その下のマントルでは1200-1500℃となる。温度は、VpとVsの両者で一致する。1つの温度モデルがP波、S波をともに説明することを示唆する。 *2003年目本地震学会秋季大会および2003年アメリカ地球物理学連合秋季大会で成果を発表した。
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