大陸プレートの構造は複雑で、生成・発達過程を含めて不明な点が多い。南極大陸は、その中でも最も未知な大陸プレートである。本研究は、ここ十数年間にようやく蓄積されてきた南極大陸の広帯域地震計の波形データから、東南極大陸プレートに関する重要な知見を得ることに成功した。東南極大陸下を伝播するP波・S波群(震央距離25・60度)の波形の特徴を調べ、その波形をモデリングすることによりP・S波速度両方の上部マントル地震波速度構造を推定、その速度構造からマントルの温度構造を見積もり、東南極大陸プレートが下部のマントルにくらべて枯渇した化学組成をもつ可能性を示した。 本研究のポイントは、ニュージーランド南方の浅発地震から東南極大陸下を伝播し南極点に達するP波とS波に後続して観測される顕著な地震波の発見である。この特徴的な地震波は、過去にカナダ楯状地を伝播するP波やS波に後続してみつかった地震波に類似し、古い大陸固有なものである可能性がある。この特徴的な地震波を含むP・S波の観測波形は、深さ約200kmに達する高速度プレートをもつカナダ楯状地の速度モデルを、わずかに修正するだけでうまく説明できる。観測されたP波波形の特徴は、プレートと下部のマントルのP波速度の違いがS波にくらべて小さいことを支持し、P波とS波の速度構造が異なることを示唆する。 本研究で得た高速度プレートをもつ地震波速度モデルは、マントルの温度に換算すると、プレート底部に大きな温度勾配をもたらす。しかし、その原因となるような熱源は安定大陸マントル内では考えにくい。一方、枯渇した古大陸マントル組成をプレート内に仮定すると、プレート内の温度は相対的に高く推測され、プレート内外でなめらかな温度変化となる。このとき、プレート底部の地震波速度の変化は、P波にくらべてS波で大きくなる。本研究の速度構造の特徴と調和する。
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