海洋表層の物質や粒子状物体の分散にっいて、高精度で位置を計測するブイの放流実験を行い、ブイの運動の記述により分散を支配するパラメータとしての拡散係数の再評価、及び拡散係数を与える各粒子の運動の実態解明が本研究の目的である。本研究では、名刺箱程の大きさで約100gと小型、軽量のGPSロガーをブイに搭載して簡便な位置追跡浮子を作成した。位置精度は数m程度と確認され、記録間隔を5分以上として2cm/s以下の流速精度を達成した。平成14年度は岩手県大槌湾、浜名湖で3回、ブイの動作把握を主目的とした観測を行い、その結果によりブイを改良した。平成15年度は夏と冬の2回、大槌湾で実験を行った。平成14年度の結果も併せ、計4回の大槌湾でのデータを解析した結果、見掛けの拡散係数は場の収束・発散に大きく依存することが確認され、それに起因して、数十分程度の短周期の変動が卓越していた。収束・発散の効果を除いた真の拡散係数は、成層及び気象条件の違う夏と冬で4倍ほど異なり、風が強く混合も強い冬季に拡散係数が大きいという定性的には妥当な結果となった。しかし、ごく表面を対象とした過去の評価結果より1桁小さな値であり、海洋表層の拡散係数は、鉛直方向に大きく異なることが示唆された。また、浮子群の重心は実験時間内ではほぼ一定の移動速度を示す一方、個々の浮子は微細な変動を反映して収束・発散を伴う複雑な動きを見せた。これは、マクロには単純な拡散方程式に従う海上の粒子でも、その漂流経路予測には収束・発散等を考慮する必要性を示唆する。本研究は、粒子個々の運動も含めて拡散現象を記述した点が従来の研究にない新しい試みであった。今後は、海洋表層の拡散係数の深度依存性の実測が課題であり、さらに、収束発散場と拡散係数を同時に評価できるという特徴を生かし、生物生産と表層の海洋物理場の関係に関する研究への発展が期待できる。
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