NCEP/NCAR再解析データと海洋モデルの長期積分の結果から、1970年代後半に生じた気候シフト以前における、熱帯対流圏準二年振動(TBO)並びにENSO現象の実態を考察した。 TBO的ENSOでは北半球春季に位相が反転するという規則性がある。このような季節依存性は所謂遅延振動子理論などのENSO発生のメカニズムでは十分な説明ができない。つまり、赤道太平洋だけで閉じた赤道波理論には限界があると考えられる。本研究の結果から、熱帯インド洋の大気海洋相互作用を考慮することによって、春季に生じる規則的な位相反転を合理的に説明できることが明らかになった。具体的には、熱帯太平洋のocean dynamicsとインド洋のwind-evaporation feedbackの複合効果がインド洋・太平洋上のウォーカー循環偏差のレジーム遷移をもたらしており、結果的にENSOの位相反転が生じると考えられる。 また、南アジア地域のモンスーンシステムはTBO的ENSOのレジーム遷移に対して受動的な役割でしかない。つまり、前後関係ではモンスーンが強い(弱い)とその後の冬にラニーニャ(エルニーニョ)がピークを迎えるので、時差相関ではモンスーン→ENSOのように見えるかもしれないが、実はインド洋上の循環偏差が海洋大陸へと東進し、その後ENSOが最盛期を迎えるというレジーム遷移の過程を見ているに過ぎないという解釈である。その意味においては、1970年代後半以前のENSO-モンスーン関係は主として、アジア大陸の陸面水文過程が間接的に寄与しない、ENSOの発達期における直接的インパクトによってもたらされていることが見出された。
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