1.大気再解析データと海洋モデル、結合モデルの長期積分の結果から、1970年代後半に生じた気候シフト以前における、熱帯対流圏準二年振動(TBO)並びにENSO現象の実態を考察した。モデルENSOは3-4年周期で発生しており、関連してインド洋・太平洋上のウォーカー循環偏差の位相反転が規則的に起こっていた。これらの特徴は1970年代後半に生じた気候シフト以前のレジームに非常に類似している。モデル内では、ウォーカー循環偏差が位相反転する際に、西太平洋上で西風バーストが頻繁に生じ、その強制によって海洋ケルビン波が励起されていた。これらの結果から、熱帯太平洋のocean dynamicsとインド洋のwind-evaporation feedbackの複合効果がインド洋・太平洋上のウォーカー循環偏差のレジーム遷移をもたらしているという仮説が裏付けられた。また、インド洋の大気海洋相互作用がENSOの位相反転のペースメーカーの役割を果たしていることが示唆された。 2.豪連邦科学産業研究機構(CSIRO)大気研究部門で開発された気候モデル(Mark3 CGCM)の制御実験結果から、南アジア夏季モンスーンの前兆現象、すなわち、春季の熱帯インド洋における降水量、SSTの赤道非対称偏差等が再現されているのが見出された。これらの様相はKawamura et al.(2001)が指摘した、主にENSO衰退期において陸面水文過程が寄与する間接的インパクト(赤道非対称インパクト)を説明していると考えられる。ENSOの間接的インパクトはモンスーン前期に有意な影響を与えるが、モンスーン後期までその影響は持続しないという観測事実とも矛盾していない。観測とモデルの比較結果から、1970年代後半以降に顕在化した、ENSO衰退期においてアジア大陸の陸面水文過程が間接的に寄与するENSOインパクトの存在が大気海洋結合モデルにより検証された。
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