南極周極流は南極大陸の周りをかなり深層まで東向きに流れていることが知られている。この成因は一般には海の上を吹く風によるものと漠然と考えられていることが多いが、力学的には、風のストレスが直接深層に影響を及ぼすことはありえず、また、Ekman収束・発散を介しても、密度成層を突き抜けて深層までその影響を及ぼすメカニズムは考えにくい。そこで、回転水槽を用いて室内実験を行い、初期擾乱として等方的な乱流を与え、擾乱の非線形加速により最終的に極の周りに東向きの流れが形成されるかどうか確かめることが、この研究の目的である。 14年度は主に、実験水槽の製作にあて、15年度に水槽の改良と実験、16年度には可視化装置を改良して、多くの実験を行い、解析を行った。 実験水槽は円筒形で毎分100回転させることで、水深を同心円状に変化させ、β効果を生み出した。初期擾乱発生装置は、幾度も試行錯誤を繰り返し、最終的には、初期に水中に挿入した棒を引き抜くことで、初期擾乱を発生させることにした。流れの可視化は、水中に分散させたスチレンビーズに、発光ダイオードを並べて作ったシート状の光をあて、表面張力や水面上の風の影響のない水槽中央部での流れを可視化することに成功した。 実験では、複数の大きさの初期擾乱を与えて、何度も実験を行ったが、すべて、かなり強い東向きの流れを得た。これを山田らの数値計算と比較すると、数値計算では、極を中心とする同心円状の海では西向きの流となる確率が高く、極をずらすと東向きになる結果となっていたが、実験では常に東向きの流れとなる。これは、数値計算では境界条件がスリップ条件となっており、同心円状の海での境界で運動量を与えることができないためであると考えられる。
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