本研究は過去12年間にアジアモンスーン域13箇所から飛揚した200台以上のVideosondeデータを解析し、豪雨をもたらす機構を雲物理学的視点から研究することを目的としている。ビデオゾンデ解析に先立ち、ドップラーレーダ等のデータ解析からモンスーン雨をもたらす雲システムの分類を行った。シノプテックな場の違い、気団の相違から各地でそれぞれ独特な雲システムが発達していた。ビデオゾンデ解析研究は雲内降水粒子の映像を記録したビデオテープの読み込みから始め、143台分の降水粒子型別粒度高度分布を求め、高度500mごとに積算し、質量及び数密度関数値を計算した。これらの基本データをもとに、まずアジアモンスーンの降水機構についての研究を行った。モンスーン雨は降水機構で"すみわけ"があること、即ち中国内陸の"冷たい雨"、熱帯海洋上の"凍結氷雨"、及び多島域での"混合型雨"である。これら降水機構の違いは雲内氷相活動の差を意味しており、雪数空間濃度に大きな地域差が見られ、雷放電頻度地域図と良く符号していた。雷放電の少ない西太平洋上で霰も氷晶も少なく、そこでは多島城と異なる"凍結氷"型で雨が降っていた。解析のハイライトは"Mix"型降雨域で雨水量が急増しているケース群の発見である。ビデオゾンデによる粒度高度分布は0℃層で霰も凍結氷も急成長していた。この原因の解明のため、微物理過程導入の三次元雲モデルを走らせた。温度・湿度場は熱帯型を与え、風には下層に直線シアーを与えている。発達した雲セルからの降水は強い下降気流を形成、下層風上に侵入した流れは次々に前方に小積雲を作る。氷晶成長に伴う潜熱放出で親雲セル内上昇流は強まり、風上側娘小積雲を引き寄せる。親雲セルから降る霰は娘雲セルから供給される十分大きく成長した過冷却水滴を捕捉、0℃層で霰が急成長、降水強度も急増した。即ち豪雨時霰急成長を通して0℃層での水の集積が行われていることが見出された。豪雨形成には霰形成の活発化と0℃層への過冷却水滴の定常的な供給を可能とする特別な力学の場が必要であり、ポラリゼーションレーダ等によるそれらの早期検知が豪雨予報改良に役立つと考えられる。
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