1.東海地域の応力場変遷に関する研究 東海沖で産業技術総合研究所が実施した反射法地震探査の結果と、報告者が収集していた静岡県掛川地域の小断層データとを組み合わせて、東海地域における鮮新世末以来の応力場変遷を推定した。その結果、この期間がこれまで考えられていたような定常的な圧縮テクトニクスではなかったことがわかった。すなわち、掛川地域では鮮新世末に圧縮テクトニクスからtranstensionalなテクトニクスに転換し、第四期の後半に圧縮テクトニクスになって現在に至っている。東海沖ではやや遅れて第四紀なかばに伸張テクトニクスが活発化し、現在に至っている。 2.多重逆解法の結果の統計的処理に関する研究 多重逆解法が出力する応力状態群の平均と分散を定量化するソフトウェアを開発した。これによって、次に述べる傾動補正の妥当性が定量的に議論できるようになった。またこの定量化法を応用することにより、次の課題である多重逆解法の出力としての複数の応力をクラスター解析のアルゴリズムで客観的にかつオートマティックに認定する原理を確立することができた。 3.褶曲帯における古応力推定の可能性に関する研究 小断層から多重逆解法によって古応力を推定する研究は、これまで断層を含む地層の傾斜が緩い地域でしか行ってこなかった。地層の傾動と断層活動の前後関係が不明確だからである。そこで新潟地域の褶曲した若い地層を切る小断層を対象として、古応力推定の可能性を検討した。その結果、古地磁気学で行われているような傾動補正が小断層からの古応力推定に有用であることがわかった。すなわち新潟地域で収集した小断層データについて段階的傾動補正を施して、多重逆解法で得られる応力群の集中度の変化をみたところ、地層の傾斜が現在の約半分のときにもっとも収集することから、褶曲が半分ほど進行したときに小断層が活動した可能性が高いことが推定された。
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