研究概要 |
調査地点は千葉県袖ヶ浦市吉野田で,中部更新統下総層群清川層の露頭である.最近,調査地点において,シカ,カメ,ナウマンゾウなど多数の陸生脊椎動物化石や淡水生貝類化石および植物化石などが発見された(兼子ほか,2000;平山ほか,2002).これらの化石を含む地層は河川の氾濫原堆積相(厚さ約1m)で,大きく分けて下位よりA,B,Cの3つの堆積ユニットが認められる.ユニットAは植物片を多く含む塊状粗粒シルト層からなる.ユニットBは淘汰の悪い泥質砂厚からなり,木片や陸生脊椎動物の骨片・歯が密集する.この泥質砂層には砂層がレンズ状に複数挟まれ,平行層理や級化層理,粗粒デューンなどが認められる.ユニットCの下部は塊状シル卜層で,上部はシルト層と極細粒〜細粒砂層との砂泥互層からなる.このユニット中には原地性を示すカメ化石や淡水生貝類化石などがみられる.これらの堆積相と化石群から,ユニットA〜Bは,河川の増水時に氾濫原に浸入してきた洪水堆積物で,自然堤防や堤防決壊堆積(クレパススプレイ)などを形成していたと考えられる.ユニットCは,その後,氾濫原に形成された湖沼の泥底とそこに氾濫時に流入した砂層の堆積物より構成される.次に,調査地点の清川層の堆積相の垂直的変化から,化石産出層の形成要因を考えてみる.調査地点の清川層は下位より河川のpoint bar相→ox-bow lake相→point bar相→natural levee相→flood plain相(化石産出層)と変化する.したがって,ここでは最低2回の河川堆積システムのaggradationが経められる.このような堆積様式は,海水準上昇や河川周辺での砕屑物供給の増大を示していると考えられる。また,調査地点では,下位の河川システムのox-bow lake相からは,やや寒冷な要素の花粉化石が産出するのに対し,上位の河川システムの化石産出層には,現地性のハナガメ(Ocadia sp.)などがみられ,下位よりも温暖な気候が推定される.したがって,この河川環境の変化は氷河性海水準変動による海水準上昇に起因したものと考えられる.
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