研究概要 |
今年度は、現世の試料を分析することによって各細菌類とその分泌物・細胞膜構成部質を起源とする化学化石の組成・構造とを一対一対応させることを試みた。用いた試料は、竜洋海底谷および黒島海丘より採取したバクテリアマットである。試料採取にはしんかい2000およびドルフィン3000を用いた。試料は通常の溶媒抽出を行なった後に、極性画分についてHI/LiAlH4処理を行ない、エーテル結合性バイフィタンの分析を行なった。その結果、非極性画分はクロセタン、PME,さらにその不飽和、3,7-dimethylalakne, alkylcyclopentane, alkylcyclohexaneおよびmid-chain-branched-alakneによって、マットは分類できる。さらにこれらは、極性画分についてHI/LiAlH4処理によって放出されるエーテル結合性バイフィタンによって、cyclopentane環を持たないバイフィタン、cyclopentane環を一つ、二つ、さらに三つ持つバイフィタンの組み合わせ、(さらにはその量比によって)によって細分されることが明らかになった。 ここで問題になるのが、海底堆積物表面に分布するため、ウオーターコラムから沈んで堆積した表層から中層に生息する生物起源のバイオマーカーと区別しなくてはならないことである。この識別のために、GC/IR/MSを用いた個別化合物炭素同位体組成の分析を行なった。基本的にメタン湧出に関与した微生物起源の化合物は-90‰を下回る軽い炭素で特徴付けられる。この考え方を基にしてバクテリア、アーケア起源の化合物と類似した構造を持つイソプレノイド、具体的にはC25HBI, C30HBIについて個別同位体分析を御行なった結果、-25‰程度の値が得られた。このように試料に含まれる化合物が化学合成細菌起源のバイオマーカーであるか否かの判断は、個別炭素同位体で容易に認定が可能であった。
|