研究概要 |
本研究では、培養菌および現世の海洋底のメタン湧出地点に生息するメタン生成菌、試料について分析を行い、バイオマーカーによる特徴付けを行った。これはメタン生成菌種をその脂質分析によって決定しようという試みである。その結果、メタン生成菌の化学組成分類であるANME-1の炭化水素画分からはクロセタンと飽和および不飽和PME,エーテル結合性脂質からはフィタンのみでビフィタンは検出されなかった。これに対して、ANME-2については,炭化水素画分から飽和および不飽和PMEのみでクロセタンを含まず,エーテル結合性脂質からはフィタンと3種のビフィタンが検出された。さらにANME-2については、C13およびC18のイソプレノイドケトンを特徴的に含むことが示された。この結果を用いて、北海道白亜系の5つの石灰岩、横浜市栄区の石灰岩(更新世)および稚内沖の炭酸塩クラスト(現世)についてバイオマーカー分析を行った。その結果、白亜系ではANME-1が卓越するが、特に下部白亜系においてはANME-1のみならずANME-2の共存が認められた。これに対して、横浜市栄区の更新世石灰岩では、ANME-2のみの活動が検出された。また、稚内沖の炭酸塩クラストでは、ANME-1が支配的であった。 さらにメタン湧出地点に観察される炭酸塩沈殿について、以下のような考察を行った。硫酸還元細菌とメタン生成古細菌の活動による嫌気的メタン酸化の結果であり、直接的には炭酸塩イオンで沈殿が促進されると共に、間隙水中では炭酸塩沈殿の妨害イオンである硫酸イオン濃度の低下とアルカリ度の上昇が生じるため、炭酸塩沈殿が生じている。 北海道白亜系の化学合成生物群集と共生するメタン細菌は、下部白亜系ではAMNE-1に近い種であり、上部白亜系さらに現世ではAMNE-2が卓越する。このように本研究の目的であった共生関係の進化を確認することが出来た。
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