研究概要 |
本研究は、地球内部流体による元素運搬を解明するため、高エネルギーイオン線(PIXE法)による流体包有物の組成分析法を開発することを目的としている。本年度は当初の計画通り、PIXEによる包有物中の元素定量に必要なアルゴリズムの開発と、そのアルゴリズムによる定量精度の決定に、必要なアナログ流体包有物の作成を行った。 PIXEによる流体包有物の定量では,鉱物マトリックス中でのビームエネルギー減衰量,包有物全体から発生する特性X線の総量,鉱物マトリックスによるX線吸収量,の3つを正確に計算するアルゴリズムが必要である.そこで今回は、Campbell(1993)とRyan et al.(1993)の計算手法を組み合わせたアルゴリズムを開発した。この方法では、X線検出器の実質的感度因子とX線発生の形状補正因子を用いており、形状補正因子の計算では数値積分に工夫を重ねているため、充分な計算精度が期待できる。 アナログ包有物は、石英ガラスの表面に開口部を持つ直径約100ミクロンの気泡に多元素標準溶液を注入し,その上からカバーガラスを被せて密封する事で作成した。標準溶液として、Cr, Ni, Fc, Zn, Ga, Go, Sr, Mo, Ag, Cd, In, Baが10,50,100,500,1000ppmの濃度で含まれているものを準備し、その注入には、マイクロインジェクターを用いた。標準溶液の封入のため、カバーガラスをシアノアクリレート系接着剤で接着し、そのことにより真空試料室内でプロトンビームを照射しても破裂・漏出が生じないアナログ包有物が作成できた。来年度にこのアナログ流体包有物をPIXEで実際に測定し,その定量値と既知濃度(標準試料の濃度)を比較することで、アルゴリズムの定量妥当性と定量精度を決定する予定である.
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