研究概要 |
生物がつくる無機物質は一般に生体鉱物(biominerals)と呼ばれ,その形成機構は天然における通常の無機的なプロセスと異なることが予想される。そしてこの機構を調べることは,より低エネルギーで高度に制御された物質・材料の創生に対して新しい知見を与えられる可能性がある。本研究課題はこの生体鉱物の形成(生体鉱化作用)を実験室でシミュレートし,その機構をより詳しく解明することを目指している。そのため無機結晶としては貝殻等に一般的な炭酸カルシウム,また生体膜をシミュレートするものとして官能基が表面に配列した重合化単分子膜(具体的にはp-PDA膜)を選んだ。p-PDA膜を表面に形成した基板を炭酸カルシウムの過飽和溶液に浸漬し,そこに成長する炭酸カルシウムの結晶相や結晶方位を,高分解能SEMに装着された電子線後方散乱回折法を用いて詳しく調べた。 まずp-PDA膜の構造を電子回折等で調べ,その表面にはカルボキシル基が歪んだ六回対称をもって配列していることが示唆された。この上に形成された方解石の結晶を電子線後方散乱回折で調べたところ,方解石のa軸の方位が非常に正確にp-pDA膜の重合方向に揃っていることが明らかになった。一方そのc軸は重合方向に垂直になっているが,その方向はかなりのバラツキを持っていた。この他に表面にはところどころ炭酸カルシウムの多形である霰石やバテライトも見られたが,p-PDA膜との一定の方位関係は持っていない。 この他本年度は電子線後方散乱回折のシステムの構築や,原子間力顕微鏡による炭酸カルシウムの結晶成長のその場観察のための条件出し等を行い,来年度により多くのデータが出ることが期待できるよう予備実験を行った。
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