研究概要 |
超音速自由噴流中にのみ存在するラジカルやクラスター等の不安定な分子種についての赤外分光を試みた。ラジカルやカチオン等の分子種については、赤外吸収の観測には至らなかったが、ピリジンやフェノール等のフッ素誘導体と水との水素結合クラスターについて赤外吸収の測定を、超音速自由噴流中において行った。実験結果及び分子軌道計算の結果より、2-フルオロピリジンの1:2,1:3クラスターは環状構造をとることがわかった。さらに、CH伸縮振動のスペクトル構造はピリジン環の周りの環境に非常に敏感であった。さらに、水素結合した水の変角振動の倍音がクラスターサイズを大きくすると強く現れた。 2,6-ジフルオロフェノール-水クラスターの電子スペクトル及び赤外吸収スペクトルを観測した。基底状態において、フェーノール-水クラスターの構造とほとんど同じであった。フェノール-水の1:2クラスターについては、電子励起状態において赤外吸収は観測することはできないが、これは環状構造が鎖状構造に構造変化するためとされている。2,6-ジフルオロフェノール-水クラスターについては電子励起状態における赤外吸収も観測することができた。その結果、フェノールのOH基の酸素と結合した水のOH伸縮振動の振動数が電子励起状態において、基底状態に比べ高くなっていた。これは、この間に働く水素結合が電子励起により弱くなっていることを示している。従って、比較的水素結合の弱いフェノール-水クラスターは電子励起により環状構造が安定ではなく、鎖状構造に構造変化するという推測を裏付けた。さらに、分子軌道計算により、1:2クラスターはかなり歪みがかかった構造であり、これが電子励起状態における構造変化の原因になっていることが結論された。
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