界面における電荷分離・再結合過程は基本的な物理化学現象として興味深い対象であり、また、太陽エネルギー利用デバイス(太陽電池、光触媒等)での最も重要な反応素過程でもあるため、近年活発な研究開発が進められている。電荷分離反応によって、カチオンとアニオンが生成する。これらは非発光性の活性種であり、蛍光分光等の手法ではそのダイナミクスを追跡することができない。そのため、過渡吸収分光によるアプローチが有効である。過渡吸収とはパルスレーザー照射によって瞬間的に生成させた活性種の光吸収スペクトルとその時間変化を追跡する分光手法である。しかしながら、界面での反応においては生成する活性種の数がバルク系に比べて著しく少ないため、過渡吸収法による測定の感度が足りないことが多い。そこで超高感度の過渡吸収分光計を開発することで研究の展開を行うことを目標にした。 平成14年度は主に装置の開発を行い、吸光度変化として10^<-6>の計測が可能である超高感度過渡吸収分光計の開発に成功した。予備的測定として酸化物半導体に色素を吸着させた系において過渡吸収測定を行い、電荷分離による色素カチオンと半導体に注入された電子の吸収スペクトルの測定に成功した。 平成15年度はさらに詳細な検討を進めた。まず、色素を吸着させた酸化物半導体系において、電荷分離効率と再結合ダイナミクスの半導体の種類による違いを調べた。電子注入効率、電荷再結合速度は励起光強度に非常に強く依存し、弱い励起条件下では一定の値を示すことがわかった。また、これらの系における電子注入過程を定量的に議論するためには、電子注入効率の絶対値の見積もりが必要であり、詳細な検討の結果、非常に高い効率を示すことを明らかにした。これらの測定において、高密度励起の効果を取り除き、反応素過程を定量的に講論するためには、開発した超高感度装置の利用が必要不可欠であった。 酸化チタンは光触媒反応として広く利用され、始めている。その光反応初期過程について多くの過渡吸収分光による検討が行われてきた。しかし、通常の過渡吸収分光計では感度が低いため、信頼できる結果を得ることができない。今回開発した装置を応用することで、高密度励起の影響を受けずに測定することが可能になり、反応素過程を詳細に議論することが可能になった。特に生成する電子と正孔の空間分布を議論することができるようになった。このように光触媒系における研究においても本装置が非常に有用であることを示すことができた。
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