レチナールイミンの異性化反応は視覚認識の立場から精力的に研究され、ホトンの吸収に感応し11-位のシス構造二重結合がトランス構造となり暗反応で回復する過程が重要とされている。本研究は共役イミン部分を切り出したアザトリエンとアザテトラエン構造に関するアザシクロヘキサジエンとその関連化合物の性質を明らかにすることを目的としたもので、これら共役ポリエン系化合物の光応答現象はシス-トランス異性化反応以外に電子環状反応や付加反応とも密接な関係にあるので、本研究を通してアザシクロヘキサジエンの性質を明らかにすることで、直接的間接的にアザポリエンの異性化過程の理解につながると期待される。 1)ヒドロピリジンの光開環反応:N-メチル・フェニル・メトキシカルボニル置換ジヒドロピリジンについて検討し、光反応で生成するシス形アザヘキサトリエンの性質を明らかにした。 2)フェノキシカルボニル置換体でフェノキシ移動によるイソシアネートの生成を見出した。 3)2-置換ジヒドロピリジンの光開環反応:2位に芳香環やビニル基、またかさ高いアルキル置換基を有するジヒドロピリジンでは、置換基の内側に入り込む光開環反応が優先し熱力学的に不安定なアザトリエンの生成することを見出した。 4)時間分開IRにより、共旋開環による一次生成物がシン形炭素窒素二重結合をもつと解釈される過渡吸収を観測した。 5)光反応生成物の構造解析とTRIRによる短寿命化学種の観測結果は、アザシクロヘキサジエン(ジヒドロピリジン)の光開環反応が同旋(conrotatory)開環でトランス方向の置換基が共に内側に入り込む(inward)回転が優先する新しいかたちのトルク選択性の発現として説明される。
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